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研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

第18回 丁寧に、粘り強く、繰り返し伝えて賛同者を増やす

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塚松 一也

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 繰り返し言うが、イノベーションの物語の最初はいつだって反対に遭うものである。明確な反対に遭わないまでも、賛同者は少ないものだ。そのため、イノベーションの進行プロセスは、仲間を増やしていく旅路、協力者・賛同者を増やしていく過程だといえる。賛同者が少ない最初の段階では、社内(時に社外)に味方・仲間をつくっていくことが社内イノベーター(イノベーションの推進者)の仕事になる。

 では、社内イノベーターは、どのような手段で仲間(賛同者)を増やしていくことができるのだろうか。ある程度"筋のいい企画"であることが前提だが、その企画を説明していくことしか事実上、手段はない。手段は、"口(くち)"と"資料"のみである。いかにその画期的な企画の素晴らしさを理解してもらうかに精進しなくてはならない。

インベンションとイノベーションは違う

 ときどき見掛ける良くない例は、イノベーションの説明でなくインベンション(発明)的な説明をしていることである。インベンション(発明)とは、ある問題を新しい技術的な方法で解決することで、その"すごさ"を伝えるためには、新たな機能性、性能の高さ、コストの安さなどを語ることになる。技術のすごさの説明としてはそれでよいが、イノベーション企画の説明としては物足りない。

 イノベーションは、その定義からして経済的効果あるいは社会変化をもたらすもので、インベンションと同義ではない。むしろ、インベンションとイノベーションは概念的には独立しているもので、すごいインベンションでもすごいイノベーション(経済効果、社会変化)になっていないものは多々ある。

 企画の説明の原則は、技術のすごさを語るのではなく、"価値"、つまり顧客の得る価値、社会にもたらす価値を、律して丁寧に語るということである。その原則を意識していれば、本来の道から外れることはないはずだが、意外と原則から外れている人も見掛ける。

相手を信じて"感じよく、熱心に、粘り強く"話をすること

 ”原則から外れている人”の中でも、一番たちが悪いのは、技術のすごさを技術的な専門用語でまくしたてるような説明である。「このくらいの専門用語は知っていて当然、分からない人が悪い」という雰囲気を醸し出して話をする人がいる。「上の人(会社幹部の人)は高い給料をもらっているのだから、このぐらい軽く理解して当然だ」と口に出して言ってはいないものの、そのような雰囲気、態度で話をする。そのような人は「こんなことも分からないのか?」という気持ちが顔に出てしまっている。

 このように相手に感じ取られてしまうことは良くない。そんなことで上の人(意志決定者)や周りの人の心象を悪くするのは、ただただもったいないことだと思う。原則通り、何度も何度も、分かりやすく丁寧に説明する。そして、粘り強く説明しようとしているのだなと相手(周り)に感じられるぐらいの熱心さ、しぶとさが大切である。このことは、前回のコラムで紹介した「影響力を発揮できる人の必要条件」の2つ目「(周りから)好意を持たれている」にあたる。

 「熱意がある」「一所懸命さが伝わってくる」ということは、社内イノベーターにとって重要な要素である。自分の発案したアイデア(あるいは自分が推進したいと信じるアイデア)の推進意思決定を、自分でない人にしてもらわないといけないというのが、社内発イノベーションの構図だからである(トップが言い出したアイデア以外は基本、この悩ましさが構造的に必ず発生する)

人工管理と人材マネジメントの違い

 影響力を発揮していくことがイノベーションを前に進める"力"になる。その発揮の前提条件の一つが、「周りから好意を持たれている」人間であるということである。イノベーションの推進に真剣ならば、無意味に敵をつくるべきではない。

 誤解がないように補足するが、「周りから好意を持たれている」ということの真の要素は、周りに迎合する(全員にいい顔をする八方美人になる)ということではなく、相手を信じて"感じよく、熱心に"自らの信念を貫いていく姿勢にある。丁寧にコミュニケーションをとって信念を貫く姿を、人は「ブレていない」と感じるものだ。そして、そのような芯の通った人は信頼できると周りの人は感じて協力的な態度に変わっていく。

 最後に、改めてなぜ、このコラムでこんなことを繰り返し書いているのかと言えば、こういう姿勢の大切さについて、イノベーションを推進する現場では十分に語られていないような気がしてならないからである。

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