研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第10回 進捗会議で元気をなくしていないか?
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
R&Dの役割とは
今回は、研究開発(R&D)のプロジェクト管理を取り上げる。R&Dといっても、R(研究)とD(開発)は性質が異なる。R(研究)は将来の商品のシーズとなるような技術を見いだすことに主眼があり、一方でD(開発)は商品として具現化することが役割だ。
R(研究)はプロジェクトのスタート段階でゴールが明確に決まっていない場合もあるため、進めながらゴールを見いだしていくという側面も含む。逆に、D(開発)は商品を出すゴールが比較的明確に決まっており、そのゴール必達を目指してがんばるプロジェクトである。
筆者がコンサルティングをする中で、「プロジェクトの進捗会議の頻度はどのくらいがいいか」と聞かれることがある。しかし、R(研究)とD(開発)の違い、業界によっても異なり、テーマの難易度、人数規模などのパラメータもある中で、なかなかはっきりと論じることは難しい。分野にもよるが、R(研究)では四半期に一度程度の進捗確認を、D(開発)では月ごとから週ごとでそれを行っているところが多いように思う。
管理の頻度を上げることはプラスにもマイナスにも働く
管理の頻度だけではなく、進捗会議が魅力的な場になっているかどうかという問題もあわせて考える必要がある。
進捗会議で問題を報告したとしても、「遅れているじゃないか、何とかしろ!」とあおったり、とがめたりしかしないのであれば管理の頻度が増すことで、元気がなくなっていく可能性がある。一方、問題を報告・相談すると、適切なアドバイス、協力、支援、激励などがもらえると、管理の頻度が増すことで、どんどんモチベーションとパフォーマンスが高まっていくことが期待できる。
管理の頻度を上げることは、その場でネガティブなフィードバックしかないのか、ポジティブなフィードバックが期待できるのかによって、プラスにもマイナスにも働くのである。
マネジャーはエナジャイズできるか?
進捗会議は、とがめて叱咤する場ではない。もちろん、本気の現れとして、時に厳しく叱ることはあってもいい。
しかし、いつもいつも「何とかしろ!」の一点張りでは、進捗会議に出る意欲が減退してしまうものである。フォローの場が元気をなくす場になっていてはならない。フォローアップというぐらいなら、気持ちもアップするような場になるよう参加者は知恵を出し合うべきだ。
マネジャーは、自身がエナジー(=Energy:自分が元気であること)だけでなく、エナジャイズ(=Energize:自分の周りの人たちを元気にする)であることが大切だ。マネジャーによってメンバーが責められているような気持ちになり、やる気をくじかれたり自信がなくなってしまうのはよくない。マネジャーは周りに学びや気付きを与えるともに、「自分が話をしている相手は、元気になっているだろうか?」を常に自分に問うべきである。
表層的なPDCAに陥らないように
長くコンサルティングをしてきた経験から、同じPDCAを回すといっても表層的な人と奥深い人がいることに気付いた。
表層的な人は、Plan(計画)に時間を費やすことをせず、Period(節目納期)を定めているだけにとどまっている。「今月末までに終えてね」というのはPlanとはいえない。さらに、Check(点検)の手間を省きたがる。Check(点検)とはまさにプロジェクト現場に対して関心を持っている具体的な行動であるはずだが、「問題があったら、現場から何か言ってくるだろう」という受け身で無関心(Careless)という姿勢ではいけない。そして、普段は無関心なのに、いざ問題が起こると怒る(Angry)。メンバーは怒られたくないのでますます悪い知らせを伝えるのを避けるという悪循環に陥りがちだ。表層的なPDCAは、悪循環を生み出しかねない。
一方、奥深い人はPlan(計画)についても深い。リソースを鑑みたできる計画を立てるだけなく、もし、何かリスクが起きたときに迷わず行動できるように、仕事の優先順位(Priority)を明確にしている。仕事の優先順位が明確になっているということは担当者にとってはとても心強い。加えて、Check(点検)して問題やリスクの兆しを知ったときに、その原因・真因まで洞察検討(Consider)する。真因を見いだして、それに手を打って同じ原因での問題やリスクの再発を防ぐようにしている。さらに、それを担当者と一緒に考える姿勢を持ち、指示ではなくアドバイス(Advice)をしている。担当者からすれば、親身になって一緒に考えてくれてアイデアをもらえることがとても心強く思える。つまり、奥深いPDCAは相互に信頼を強くする善循環を育むといえる。
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