研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第20回 新しいことは"3人"で始めたほうがいい?
- R&D・技術戦略
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塚松 一也
イノベーティブな取り組みは、逆風の中を前に進めるヨットのようなもの
本シリーズで何度も述べている通り、新しい発想の商品アイデアを具現化するプロジェクトは、最初から多くの賛同を得て進めていけるとは限らない。最初から強い追い風が吹くのはごく稀である。最初は理解されない、反対される、懸念をもたれる、外野からとやかく言われる、協力してもらえない、などイノベーティブな取り組みには逆風が付き物である。
しかし、それでも前に進めるのがイノベーションリーダーの役割である。「上の人が認めてくれないから、できない」「みんなが協力してくれないから、できない」と諦めたのでは、イノベーションリーダーではない。逆境の中を推進していくからこそ、リーダーシップが重要である。イノベーティブなプロジェクトは、例えていえば「逆風の中を少しずつ前に進めるヨット」のようなものだ。
確かに、逆風で普通に考えれば前に進まない状況かもしれない。しかし、イノベーションリーダーは屈することなく、細かく工夫を駆使することで、小さな力学を使いながら、少しずつでもジグザグに前に進めていく。
なぜ、逆風でもヨットが前(実際には斜め前)に進めるのか。詳しいことはここには書かないが、どのような「力」を利用しているのかを簡単に説明すると、仕組みとしてセール(帆)の付近を流れる風によって発生する「揚力」と、センターボード(船底の中央から水中に差し込む板)による「抵抗力」を利用している。「揚力」と「抵抗力」が前に進む力の理屈なのである。
この原理はわれわれに重要なことを教えてくれているように思う。つまり、風向きを変えようとするのではなく、ヨットの構造の工夫とセール制御の術がポイントだということである。新しいことを始める人(たち)の構造と働き掛けの術が大事だということを、ヨットが教えてくれているような気がしてならない。
新しいことを始めるときには3人で
イノベーションにはリーダーシップが重要だが、どんな優れたアイデアをどんなに優れた人が提案しても、新しいことは社内の抵抗にあってつぶされてしまいがちである。特に、推進者が1人の場合は、つぶれやすいものだ。
新しいことを前に進めるリーダーが最初になすべきことは、仲間をつくることである。1人で抵抗と戦うのではなく、仲間と一緒になって前に進めるようにする。そういうコアとなる推進組織構造を形成することが大切である。では、仲間は何人つくるとよいのだろうか。必ずしも「仲間は多ければ多いほうがいい」わけではない。人が増えれば、その分、意見も割れていくだろうし、緩い派閥のようなサブグループもできて、一致団結の度合いも低下する弊害も出てくるだろう。
私が思うに、答えは、"3人"。1人は単。2人は複。3人になると団となる。
なぜ3人がいいのかということを、2つの分野から説明する。
1つ目は、経験則、ことわざ、いにしえの知恵である。たとえば、以下のように3人の強さが人類の知恵として語り継がれている。
・三人寄れば文殊の知恵
・三本の矢(毛利元就の教え)
・三人にして迷うことなし
・三人市虎をなす(市虎三伝)
2つ目は、集団心理学・行動科学系実験の知見からである。以下のように3人の強さが実験結果などから説明されている。
・3人が結束すれば十分に周りに影響を及ぼす(4人以上に増えてもさほど効果は高まらない)
・3人いれば、単なる"変わり者"や異端児とは見られにくい(周りから無視・嘲笑されにくい)
このあたりは、ソロモン・アッシュの同調行動実験(1951年)などが古典的研究として知られている。
そして、私は3人が集まると生じる心理や力学があるように思う。
・くじけそうになったとき、励まし合える(他の2人のがんばりに刺激を受けて意欲が高まる)
・1人だと諦めてしまう状況でも、他の2人も諦めるとは限らないので、チームとして諦めにくい
・ある人にとって相性の悪い相手も、別の人はうまく対応できるかもしれないので、頓挫しにくい
・3人がそれぞれのネットワークを持っているので、"然るべき誰か"にアプローチできる可能性が高い
・3人は誰かと誰かがもめたとしても、誰かが仲介役になることで、紛糾状態・決裂にはなりにくい
これらが、3人集まることのメリットだと考える。
新しいことを始める場合、早い段階で3人の"団"を形成できるかどうかが一つの"鍵"になる。
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