研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第24回 ワクワクするプロジェクトの目標を掲げているか?
- R&D・技術戦略
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塚松 一也
これから数回にわたり、研究開発現場のプロジェクトマネジメントについて思うところを書いていきたい。まず今回は、プロジェクトの目標設定について考えてみよう。
本来のMust目標とWant目標の意味
開発プロジェクトは、然るべき時期(納期)までに、然るべきスペック のものを、所与のコスト・リソースで成し遂げるものである。ここでいう" 然るべき"ということがプロジェクトの「目標」と呼ばれる。
要するに、「いつまでに何を作り上げるのか」がプロジェクトの目標である。 多くの場合、目標は簡単に達成できるものではなく、厳しい目標を掲げ、挑んでいるプロジェクトがほとんどである。
コンサルティングをしている中で、プロジェクトリーダーに、「その目標は、必達目標ですか?」と尋ねると、「もちろん、必達です。Must目標 です」という回答が返ってくることがある。そこで、「今の目標はMustなんですね。もし、達成できなかったらどうなってしまうのですか?」とさらに尋ねると、「上から(あるいはお客さまから)、絶対に目標必達だと言われているので、目標が達成できないということは考えられません」といったように、Must目標のMustである理由が よく分からないケースもある。
その多くの場合は、プロジェクトリーダーがその目標をどことなく"負担"に感じていて"やらされ感"が漂っている。
一方で、「このプロジェクトのWant目標は何ですか?」と尋ねると、「Must目標で精一杯で、Want目標なんてないです」「できれば、性能を2倍ぐらいまで上げたいとは思うのですが、あまり厳しい目標を掲げてもいけないのでメンバーには言っていません」というような返事が返ってくることもある。
Must目標とWant目標については、多くの組織ではどうも次のような意味合いで言葉が使われているようだ。
・Must目標=必達せねばならない目標
・Want目標=できたらいいなという目標
しかし、改めてMust目標とWant目標は、本来の英語の意味に立ち返ってみると、次のような解釈が適切なように思う。
Must目標は、「~しなければならない」は、もしMust目標が達成できなければ、プロジェクトをやらなかったのと同じくらい意味がないという絶対的な最低ラインの目標と解釈すべきである。あるレベルを達成できなければ、そもそもそのプロジェクトをやる価値がなくなってしまうという"絶対的な最低レベル"はあり得る。それが本来の意味での"Must目標"である。
一方、「I want ~」という英語は、「できたら~したい」というニュアンスではなく、「~が欲しくてたまらない」というものである。ならば、Want目標は、「~をなんとしても成し遂げたい!」という意欲満々な目標になるのではないか。「もし、その目標が達成できたら、価値の意味が違ってくる! 飛び抜けてすごい、抜群なレベル!」と、その目標自体がやる気を奮い起こさせるはずだ。あるレベルを達成できたら大きく意味合いが変わってくるような "抜群に魅力的なレベル"、それが本来の意味での"Want目標"である。
Must目標は、「それができなかったら大変なことになるぞ!」という危機感・恐怖感をあおる性質のものである。確かに、危機感・恐怖感でやる気は高まると思うが、いつもいつもMust目標だけでがんばり続けるというのは、精神的にきつい。
一方、Want目標は、「これができたら、みんな驚くぞ! びっくりさせてやろう!」とポジティブにワクワク感・武者震いを高める性質のものである。
プロジェクトリーダーには、ある程度は目標を設定する権限があるはずだ。プロジェクトリーダーは、メンバーがその達成を喜べるような魅力的な目標、メンバー各自の成長が実感できるような挑戦的な目標を掲げるようにするとよい。
魅力的なWant目標を掲げることがプロジェクトリーダーに問われている
プロジェクトのゴールは、「最低の目標」のゴールだけではなく、「最高の目標」があるはずだ。「これが達成できなかったら価値がない」というMust目標(最低目標、絶対必達目標)と、「これが達成できたら、最高!」というWant目標(最高目標、大成功目標)を両端にして、その間に幾つかのゴールがある。
本来、プロジェクトは、Want目標を目指して進めていき、諸般の事情で目標を落とさなくなってしまったとしてもMust目標は必達しよう(必達できる)というものである。最初から、Must目標の達成だけを目指していると、何かあった時にMust目標にすら届かなくなる。その意味でも、Must目標(最低の目標)だけでなく、Want目標(最高の目標)を掲げる必要がある。
コンサルティングをしていると、やらされ感を漂わせて仕事をしている プロジェクトリーダーに出会うことがある。プロジェクトの目標を尋ねても、「上から、やれ!って言われているので」とか「お客さまから無茶な要望を押し付けられて」といった感じの"被害者モード"の語りをする人でる。本人は気付いていないかもしれないが、そのようなネガティブな雰囲気は、プロジェクトメンバーに伝わる。
プロジェクトの目標を自分の言葉で魅力的に語ること、かっこつけていえば"プロジェクトの夢"を語ることが、プロジェクトリーダーとして最初にやるべきことだと、私は思う。
プロジェクトリーダーが、素敵な"Want目標"を掲げることが、プロジェクトメンバーのモチベーションを高めることにつながるものである。
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