研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第14回 「まずやってしまって、後で謝る」の原則で行動する
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
以前も書いたが、最初は分かってもらいにくいものを社内提案して先に進めるという非常に困難な道を歩むのが、社内発のイノベーションである。提案する側には、信念、志、情熱、熱意、根性、ガッツ、粘り強さ、人脈、社内政治力・・・などが求められる。ちょっとやそっと否定されたり非難されたりしても諦めることなく、しぶとくあの手この手で賛同者を増やしていくプロセスである。
今回は、イノベーティブなプロジェクトを引っ張る際に意識したほうがいいことの一つを書く。
「まずやってしまって、後で謝る」の原則
イノベーションは、従来の常識では理解しにくい要素が多少なりともある。従来の常識や旧来のパラダイムで考えると、たとえ結果的に成功する筋のよいアイデアであったとしても、アイデアの段階では最初から多くの人に理解されることは難しいものである。社内でアイデアを提案しても、いろいろな批判・反対の声が上がり、"つぶされて"しまいかねない。つぶされてしまっては先に進めないので、つぶされないようにしながら少しずつ前に進んでいく"したたかさ"がイノベーションを引っ張るリーダーには求められる。
画期的な新しいアイデアはなかなか分かってもらえないのが世の常である。分かってもらえない一つの要因は、そのテーマを推進する人の説明力の低さにあると考えるのが謙虚な姿勢だろう。新しいことを進める人間として、その内容について極力分かりやすい説明ができるように最大限尽力することが、まずもって大切である。その説明努力を十分にした上で、それでもなお理解されず前に進めなくなりそうなとき、意識すべき行動原則の一つが「まずやってしまって、後で謝る」だ。
新しいことをやろうとするときに、いろいろと上の人や関係部署の許可をもらっておくべきと思われるシーンがある。「10万円以上の支出には上司の許可が必要」というような明確な社内ルールに該当するようなケース以外にも、暗黙の慣行として許可が必要な気がするというケース、あるいは「後からとやかく言われたくないからあらかじめ断っておいたほうがいい」と自己保身的に許可をもらいにいくケースなどがある。
確かに上の人に伺いを立てずに何かしてしまうと、後から「なぜ事前に話をしないんだ。ルールを守れ。筋を通せ」という感じで小言を言われてしまう恐れはある。中には「俺を無視するのか。バカにするな!」などと、すごくご立腹になる人もいると思う。上司によっては、小言(こごと)で終わらずに大事(おおごと)になることもあり得る。
しかし、そのような人(後で、腹立たしく思いそうな人)たち全員にアイデアを説明して「OK。やっていいよ」と快諾いただける可能性は現実には低い。OKがもらえると思うなら説明力でなんとか乗り越えようと思うはずだが、乗り越えられそうもないと思っているのでイノベーション推進の当事者は困る。
「こりゃ、いくら説明してもらちが明かない」ということならば、事前の許可をもらわずに動いてしまって、話を一つでも二つでも前に進めてしまうことが、社内イノベーションの原則行動だと、私は信じている。そして、後で上司や関係者の怒りを買ってしまったら、「申し訳ありません」と平謝りして許しを乞うことで、なんとかその場をしのぐというやり方である。確信犯的にそれをやるということを、私はオススメする。
もはや古典になりつつあるが、ギフォード・ピンチョーの『社内起業家(イントラプルナー)』という本にある「企業内起業家の十戒」の一つが、まさにこの原則を端的に言い切っている。
・許可を得るよりも、許しを乞うほうが簡単であると知れ
・失敗して許しを乞うほうが、スタートの認可を請うよりもたやすいことを悟れ
普段から信頼の貯金をしておくことで、ここ一番での反則が正当化できる
「まずやってしまって、後で謝る」作戦において、後で謝ったときに許してもらえるためには、普段から信頼の貯金をしておくことが実際的なポイントになる。
「まあ、ルール違反だけど、○○さんだったら、許さざるを得ないよな」「○○さんが、そこまで言うなら、仕方がない」と思ってもらえるか否かは、そのときの謝り方の巧拙でなく、本質的にはそれまでの行いで信頼を勝ち得ているかどうかで決まるものである。肝心な場面で「許可をもらわずにやってしまって、後で謝って許してもらう」という作戦をとるには、普段から信頼を得ておくこと、(俗っぽくいえば)いろいろと周りに貸しをつくっておくことに尽きる。ここまで述べてきたような実践的な知恵を、OJTを通じて先輩は若い人に教えていくべきだと思う。ここ一番で奥の手を使うために、普段の仕事振りが重要なのだということを、折に触れて説いていくことが、イノベーションに関わる部門の先輩の大切な役割なのである。
R&Dの現場において、技術的な知見のOJTも重要だが、まさにこのようなイノベーション推進の知恵をOJTしていくことも重要である。
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