研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第21回 良い交流会と悪い交流会の違いとは
- R&D・技術戦略
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
今回は、研究開発部門で行われている技術交流会(発表会)を魅力的に運営する姿勢と方法を取り上げる。ここでいう技術交流会とは、研究所や開発センターの研究員・技術者が、自分の研究内容を社内の人に説明(発表)し、研究内容の理解を促したり、研究の価値を高める気付きを期待する会合のことである。
「他社では技術交流会はうまくやっているか?」という類の質問を受けることがよくある。秘密保持上、具体的な企業名や研究所名を挙げて紹介することはここでは控えるが、要するに主催者がどのような姿勢で技術交流会を企画し、参加者がどのような姿勢で臨んでいるかが、良い、悪いの違いを生む要因になるように思う。
技術交流会に臨む姿勢が重要
技術交流会について、よく耳にする悩みの声は、次のようなものである。
「以前は、技術交流会をやっていたが、今はやっていない」
「一応、技術交流会の場はあるが、参加者が少ない」
「声は掛けているが、参加してほしい人が参加してくれない」
「全般に関心が低い。開催が知られていない」
「場が盛り上がらない」
これらの声に代表されるように、技術交流会を魅力的に運営できていないところは少なくない。
技術交流会がこのように悪い状態にあるのは、運営する側に"想い"と"工夫"がないことが主たる原因だと思う。上の人や周りから「交流会をやっていないのか」と聞かれたときに叱られないようにするためだけの証拠づくりのような"なおざり運営"をしている人もいる。そもそも会合を魅力的にしようという意欲に欠けているのでは、さすがに盛り上がるはずもない。
技術交流会を主催する人の中には、「技術交流会を実施すれば、絶対に新しいものが出てくるのか?」という疑問を持つ人もいる。
もちろん、このような会による成果は"決定論的"なものではない。「技術交流会で、新しいものが生まれやすくなるだろう」という"確率論的"な世界観・価値観の話である。人と人が知り合い、技術交流をすることから、新しい発想、新しい技術、新しいアイデアが生まれやすくなると信じるという性質のものである。それゆえ、このような会に価値を感じる人(会の主催者やトップマネジメントなど)が、「忙しいかもしれないが、技術交流会をやろう」と決めて、「みんな参加しよう。他部門の人にも声を掛けよう」と呼び掛け、継続し続ける本気度が求められるのである。
主催者の姿勢 悪い例と良い例
たとえば、主催者となった人が企画段階でほとんど働かず、発表者と時間を決めて依頼するだけで、しかも、その発表内容についても発表者に「準備、よろしくね」と丸投げしているようなケースがある。ひどい場合には、「時間がある人、出席可能な人の中で誰かやる人いないかな?」「キミ、まだやっていないから、次の当番ね!」といった人選をしている場合もある。要するに、誰でもよく、当日の発表時間のコマさえ埋められればいいのだろう。
主催者がこのような姿勢では、結果が良くないことは、火を見るよりも明らかだ。主催者自身に心から「技術交流会をよい場にしよう」という"想い"があれば、テーマ、発表者、内容、時間をよく吟味し、事前打ち合わせをして、内容を、魅力を高める時間を惜しまない。内容も発表者任せにするのではなく、内容、時間配分、事前の告知方法など細部にわたって丁寧に企画するものだ。
そして、このような前向きで丁寧な主催者からは、その場の貴重さ、一期一会を大事にしようとすることが、参加者におのずと伝わっていく。
発表者の姿勢 悪い例と良い例
発表者の姿勢についても悪い例を見掛けることがある。
典型的な例としては、「どうせ、私の専門的な話、皆さん、素人だから分からないでしょう」といった様子で、聴き手への敬意が少なく話をする人である。専門用語を多用し聴き手の関心を削ぐ発表をしている人もいる。聞いてる側に伝わっていないことは、発表している本人も感じ取れるはずだが、なぜか、そのような説明をしても本人は平気だったりする。
本当に内容を伝えたいと思っている人は、該当分野の専門知識に詳しくない人にも分かるように話(内容、スピード、展開)を構成する。分かりやすい「喩え(メタファやアナロジー)」と「例示(具体例、臨場感ある実例)」を事前に考えて場に挑むはずである。
これを読んでいる皆さんは、自分の専門分野の話を分かりやすく人に伝えるために、「喩え」や「例示」を準備して説明に臨んでいるだろうか。
質疑応答 悪い例と良い例
せっかく質疑応答の場をとっても、時間が限られるために質疑・意見を言える人が少ない、発言する人が固定化されがち(偉い人、話したがる人、沈黙に弱い人、無難な人など)というのではもったいない。
これらの問題を解決するためには、口頭での質疑以外に、聞き手の人が紙にコメントを書いて発表者に渡すなど、多くのコミュニケーションをとる工夫がある。良い質疑応答の中には、自分がその場で直接質問をしなくとも「引き続き、この人と情報交換・議論したい!」というような良き"余韻"、"次への期待感"が残る。
会の効果 悪い例と良い例
「交流会が何のきっかけにもならず、新たな交流がほとんどない」というのでは、交流会の意味がない。そのような会は"交流会を開催するのが目的"になっている場合も多く、交流会自体が自然消滅しがちである。
良い交流会というのは、交流会をきっかけに、新たな交流が生まれることである。多くの人が、次回を楽しみにしている。また、回を重ねるごとに会の運営が良くなっていく。
次回は、本コラムの続きとして、技術交流会の質疑応答を盛り上げる工夫について紹介する。
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