研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第7回 メッセージングだけで伝えた気になっていないか
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
前回のコラムでは、メッセージングの重要性について話した。今回はそれに加え、日々のコミュニケーションの大切さについて述べる。
ディシジョン(意思決定)すること、メッセージングすること
権限がある人、責任ある立場にいる人間の仕事の一つは、ディシジョン・メイキング(戦略等の意思決定)とそのメッセージング(伝達)である。この2つについては、その立場で普段から実践されている人には至極、当たり前の話かと思う。
しかし、実際、上位マネジメントの一部には、下からの報告を聞いて「良い・悪い」だけの批評・判断をしているような"裁判官"のような役割しかしていない人がいるのも事実である。マネジャーは自分が組織を引っ張っていく、望ましい方向に導いていくというリーダーの側面のマネジメントの役割を認識すべきである。
ディシジョンし、メッセージングすることには、次のようなことが挙げられる。
・理念、方針、ビジョンなどを策定する
・戦略、目標、計画等を策定する
・組織を設計する(再編する)
・規則をつくる、変える、廃止する
・仕組みをつくる
これらは、細かく見ると悩ましいことは多々あるだろうが、責任ある立場の人間として、「大局観に立ち、信念を持って、決めて、伝える」ということに尽きる。
メッセージの補完としてのコミュニケーション
よい意思決定とその発信の重要性を認識する上で、加えてもう一つ重要なことがある。
意思決定の内容がどんなによいものであっても、また、そのメッセージ発信がどんなに素晴らしいものであったとしても、メッセージの受手側全員が正しく理解し、みんながすぐに望まれる行動を起こすとは限らない。いや、多くの人は一度や二度聞いたぐらいでは、正しく理解して望まれている行動・姿勢に改められるものではないと考えた方が現実的な解釈である。
上位マネジメントの方と話をしているときに、「これについては、一度説明会をしたので、伝わっているはずだ」というようなことを聞く。そう信じたくなる気持ちは分かるが、逆の立場になって考えてみてほしい。自分が担当者だったとき、上の人のメッセージを一度聞いただけで、すぐに十分に理解できただろうか。内容の理解もさることながら、メッセージに内容に"本気さ"を覚えただろうか。
人は、一度話を聞いたぐらいで、伝え手側の真意や本気度を感じ取れるものではない。まれに衝撃を覚えるぐらいの感動的なメッセージングがあることは否定しないが、やはり例外的に珍しいことである。つまり、多くのメッセージの内容は、1、2回話しただけでは伝わらない。ならば、マネジメントが"日常"行うべきことは、メッセージしたことを繰り返し丁寧に分かりやすく説明し続けることだ。それが、日々のコミュニケーションということに他ならない。
ときどき、「趣旨が正しく伝わっていない。誤解されている」と嘆いている上位マネジメントの方に出会う。相手(部下・関係者)の理解力の低さがその原因の一つだということを否定するつもりはないが、相手の理解力が低いと思うならば、それこそ何度も丁寧に説明を繰り返し、正しい理解につなげるほかない。厳しく言えば、「誤解されている」という状況は、「丁寧に説明していない」ということなのである。原因はメッセージ発信者の丁寧さ不足にあると認識すべきだ。
また、各種の意思決定の内容(組織設計、仕組み、目標設定など)は、よく考えられたとしても、程度の差こそあれど何らかの弱点があるものである。世の中に"完璧な"戦略も仕組みなどもないと考えた方が賢明だ。その弱点を補う方法が日々のコミュニケーションである。上位マネジメントは、上意下達ということではなく、一人の人間として、部下・関係者の人間と向き合って対話をすることが重要である。命令伝達でなく、繰り返し諭す、説くことが大切である。そして、場合によっては厳しく叱る。時に"怒る"ことも、人間としてあっていいと思う。また、良き姿勢・行動に対しては、褒める、感謝することも重要だ。部下の良き行動には、一緒になって喜ぶというのも人間の心の表れだと思う。
コミュニケーションは、一人の人間として、「相手を信じて、真心をもって、話をする」ことに尽きる。そして、説明・コミュニケーションを繰り返すことで、コミュニケーションの仕方(どういう例で説明するといいのか、ネタのチョイスなど)も上手になっていくものだ。コミュニケーションも、場数が重要だとつくづく思う。
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