研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第6回 マネジャーはメッセージの中身を熟慮しているか
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
メッセージの場面の重要性を分かっているか
社長の期首訓辞などを筆頭に、経営陣・管理職が部下にメッセージを伝える機会はいろいろな局面で多々ある。
そもそもマネジメントというのは、人が言葉などで思いや考えを伝え、相手がそれに呼応した動きをすることで、組織として成果を生むことだ。言葉によるコミュニケーションこそが唯一のマネジメント手段である。
時に「力づくで無理やり、やらされた」とか「問答無用で強制された」というように、上の人から何かを強いられることはあるが、それとて物理的に両手両足をつかまれて動かされるということではなく、強制力を感じさせるメッセージだったということだ。
われわれ人間社会では、人を生かすも殺すも言葉一つである。研究開発を担う人たちは、いわゆる頭脳労働者で、ドラッカーのいうところのナレッジワーカーで、彼・彼女らのメッセージの理解力は低くないと考えた方が賢明だ。
マネジャーがおかしなことをメッセージにしたときに、それを疑わずに真に受けることは少なく、「何か変だな?」と勘繰る力はある。くれぐれも「どうせ、なにを言っても聞いていないだろう、理解できないだろう」などと現場をバカにした態度をとってはいけない。「メッセージの受け取り側に理解力がある」ということは、良いメッセージを発信すれば、理解が速く、望ましい行動につながりやすいということでもある。研究開発現場を預かるマネジャーは、よいメッセージを発信することで、望む組織づくりとよい研究開発成果を得やすくなる。
私は仕事でさまざまな会社の幹部(経営陣・管理職)が社員に対してメッセージを発信するシーンを見てきた。はたで聞いていても聞きほれる・感動するようなメッセージを語るカリスマ性のある人がいる一方で、「この人、何が言いたいんだろう?」と正直思ってしまうような全然、内容が頭に入ってこない話をする人にも少なからず出会ってきた。
「みんなでがんばって何か新しいことをしよう!」「A部門とB部門でシナジーを発揮しよう!」というような感じの話に終始し、聞いている人の頭の中になんらイメージが湧かないのである。決して間違ったことを言っているのではないのだろうが、「聞き手にメッセージの内容が伝わらない」「聞き手の意欲が高まらない」という意味では、ダメなメッセージの例であると思う。
メッセージの内容をよく考え、適切な「例え」と「例えば」を織り交ぜる
ここで私が主張したいことは、「マネジャーたるもの饒舌であれ」ということではない。「マネジャーたるもの、よく内容を考えて、考えたことが伝わるようにメッセージを発信すべし」ということだ。
「私が具体的なことまで言ってしまうと現場が考えなくなってしまう。だから、あえて詳しくは言わないのだ」という人もいるが、おそらく体よく逃げているのではないだろうか。そういうマネジャーは、自分の力を過信し過ぎで、かつ、現場の能力や意欲を低く見過ぎだと思う。さらにいえば、おそらくメッセージの発信側にも、具体的なイメージがないことが多いのではないだろうか。
よく考えた内容をメッセージにする場合は、抽象的な話だけでなく、適宜、例示を織り込むことが重要である。例示には、「例え」と「例えば」の2種類がある。「例え」は、メタファー、アナロジーの類で、何かに例える、なぞらえることで、「例えば」は具体的な例を挙げて伝えることだ。
この「例え」と「例えば」を使って話をするときには、その例示する内容、話のネタをあらかじめ、よく吟味した上で厳選のネタを使うようにすべきである。話をしているときに適切な例示を思い付けることも、まれにはあるだろうが、そうそうよい例示がとっさに話せるものではない。あらかじめ、メッセージの内容を伝えるのにふさわしい例示をよく考えて準備しておくことが大切である。
数字だけでごまかさず、戦略ストーリーを語ること
また、メッセージは「結果として○○円の売上達成」というような結果の静止画だけでなく、そこに至る物語(ストーリー)を語ることが重要だ。
聞き手は、目標数字や結果状態を実現する戦略ストーリーを知りたい。それを聞きたがっている人に対して、幹部がストーリーを語らないというのは、聞き手からすれば"肩透かし"を食らったように感じ、「この幹部の人は、考えていないのではないか」と勘繰りたくなるものだ。せっかくのメッセージの場面が逆効果になってしまいかねない。
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