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研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

第29回 遠慮は本気のなさのあらわれ

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塚松 一也

振り返りは、過去を嘆くことではなく、未来に活かす教訓を見出すこと

 これまで長い間コンサルタントの仕事をしてきた中で、失敗プロジェクトの振り返りに立ち会ったことが多々ある。「失敗した」と自他ともに認識されているプロジェクト、当初の日程計画から大幅に遅延し、追加コストも膨れ上がり、関係者が心身ともに疲弊して辛かったプロジェクトにかかわった人たち、本当は一刻も早く悪夢を忘れたい人たちを集めて行う振り返りの場である。

 ファシリテーションおよび参加者の姿勢によって、この振り返りの場は活きたものにも、形骸化したものにも変わる。振り返りの場を、過去を咎めたり・悔いたりするだけの「叱責・懺悔の反省会」だと勘違いしている人が一部いるように思う。そのような捉え方だと、振り返りの場は参加したくない嫌な場になる。

「なぜ遅れたんだ?」が原因を深掘りする問いかけには聞こえず、「スケジュールを守る能力がない意欲ない」とダメ出しをされているようにしか思えなくなり、「ご迷惑をおかけしてもうしわけありませんでした」と謝罪・懺悔をお互いに述べ合っているだけの場になってしまう。そのような場は、形だけ振り返りをして何も得るものがない、ただただ「形骸化」した振り返りである。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があるが、自らの実経験からも学なぼうとしない人は、愚者以下ということになってしまう。

 あらためて、振り返りの意義を確認したい。振り返りとは、プロジェクトを省みて教訓を抽出し、未来に活かそうという意図の場である。「もし、タイムマシンに乗って、このタイミングに戻れたとしたら何をしたらよかっただろうか」を創造的に知恵だしする場である。全く同じプロジェクトはないが、将来同じような状況(同じような匂い)になった時に、教訓を活かしてより良い選択ができるように学習することが、振り返りの本来の意味であることを今一度認識したい。

 その意味では、なにも失敗プロジェクトだけが振り返りの対象ではない。うまくいったプロジェクトを振り返り、良かったこと・今後も続けたいことなどを言語化して、今後の良きルーティンにしていこう。YWT(やったこと、わかったこと、つぎやること)を言語化する習慣は本当に自分たちの能力向上の礎となるものだ。

遠慮は本気のなさのあらわれ

 振り返りの中で「私はかなり早い段階で、初めに立てたスケジュールは守れないので、リスケすべきだと思っていたんですよね。」というような見解を吐露してくれる人がいる。私はコンサルタントとしてあるいはファシリテーターとして振り返りに参加しているので、そのような発言を聞いた時には「思っていただけですか? 上の人や周りの人に言わなかったのですか?」と次の質問を投げかける。

 一部の人を除いて、その質問への回答は「言えなかったんですよね」というようなことが多い。それを受けて「なぜ、言えなかったのですか?」と質問を重ねると、「まだ始まったばかりなのに、後ろ向きなことを言うのは悪いと思った」とか「他の人が頑張っているなかでは、無理だということを言いづらかった」とか「自分が無理だと言うと、やる気がないとか能力がないとか思われそうで怖かった」というような深層を語ってくれる。人によってはさらに「他の人も無理だと思っていたと思うけど、自分が最初というのは言い出しにくかったです。誰かが無理だと音を上げるのを待っていました。チキンレースでした。」というようなことを話してくれることもある。ようするに『遠慮して正直なところを伝えづらかった』ということのようだ。

 ここで、少し冷静に考えてみたい。遠慮して本当のことを言わないことの正義はどこにあるのだろうか。自分に批判の矛先を向けられたくないという保身から「遠慮した」、正しくは「逃げた」という心理は理解できる。自分の身を守るために(その時は)「本当のことを言わない」ほうがよいだろうという判断をしたのだろう。ただ、この保身からくる正義は、プロジェクトの成功にとって良いことだろうか。本当のこと(情報、状況認識)が上がってこないということは、プロジェクトマネジメントにとって正義であるはずがない。つまりこの話の構造は、「遠慮して」と上品な表現をしているものの、実はプロジェクトの成功に向けての真摯な姿勢ではなかったということなのである。厳しくいえば、本気でプロジェクトの成功を望んでいたわけではないというようにも解釈できる。そのような「遠慮」はプロジェクトのステークホルダーの誰にとっても望んでいないことであることはあきらかだろう。

 つまり、「遠慮して本当のことが言えない」ということは、成功に向けての本気のなさの表れだと言える。ネガティブなことやバッドニュースは言いづらいという人間心理になりやすいことは理解した上で、あえて正論を説きたい。「遠慮は、本気のなさの表れ」「遠慮は、プロジェクト成功の敵」なのだと。

本気だったら勇気が出る

 「でも、やはりネガティブなことは言いづらいですよ」という人もいるだろう。気持ちはよくわかる。本当のことを言うには、(程度の差こそあれ)『勇気』が必要になる。耳障りの悪い本当のことを言う勇気が必要なのだ。
 では、その勇気はどうやって生み出せばいいのか。自分の中でその勇気をどう奮い立たせればいいのか。それは、シンプルにプロジェクトの成功に本気になるということだろう。本気だったら「これは黙っていてはいけない。早く伝えなければ。」というような気持ちにかられるはずだ。そう、成功への本気さこそがこの類いの勇気の源泉なのだ。本気だったら勇気がでるものだ。勇気が出ない(つまり、遠慮に逃げ込む)ということは、実はその程度の本気度合いしか持ち得ていないということなのだ。

 あらためて「プロジェクトの成功を第一義に考えて、遠慮せずに言い合う」という行動原則をプロジェクト関係者で今一度確認しよう。それがプロジェクトマネジメントで最初に為すべきことのひとつだと考える。

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