研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第9回 仕事の質を見極めて、仕事をしているか?
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
今回は、受託型の開発、技術者の派遣、専門技術のサービス、技術コンサルティングなど、売上責任のある職場のマネジメントを取り上げる。明確にプロフィットセンターと位置付けられ、一人月単価(一人当たり1カ月の価格)が100万や300万円などと設定されている職場を想定している。
このような職場は、R&D投資として捉えられる研究開発職場とは異なり、しかるべき売り上げを上げる責任がある。売上達成責任がマネジャーにも個人にもあるため、人を遊ばせておくわけにはいかず、何か売り上げにつながる仕事があれば、少々経験量が少なくても人をアサインすることがある。
難しい局面に投入されることで人が伸びるものである。経験知が少ないからといって、チャレンジさせずにいると、なかなか人は育たない。周りがサポートしつつ、本人が主体的に、より高い売り上げの仕事にチャレンジするのはとても重要なことだと考える。自分の働きで直接的に売り上げが上がるため、事業貢献を実感できる構図である。
しかし、このような組織で見られる問題の一つとして、売り上げ以外の要素が考慮されにくくなるということがある。本コラムの第4回でも述べたが、このような職場では人工管理をすることがマネジャーの仕事だと勘違いする人が出てくる。
稼ぎの量(売上高)と稼ぎの質(仕事の質)は比例するとは限らない
売り上げは、金額という非常に分かりやすい物差しで見ることができるため、誰にでも機械的に判断できる。ただ、仕事は売り上げの高低の軸だけで、良し悪しを判断できるものではない。
何をもって仕事の質(Quality of Earning)の良し悪しを判断するかの判断基準はそれぞれだと思うが、ただ売上高とは異なる質の側面があることは理解いただけるだろう。この仕事の質の側面は機械的に判断はできず、仕事を担う人間およびマネジャーが判断するべきことである。
仕事の中には、売り上げは高いものの、自部門のミッションやその個人の成長、職務満足度などの"質"の側面では高くないものもある。「あまり魅力的な仕事ではないけど、売り上げになるからやってよ」といった感じで依頼されるタイプの仕事だ。
現実にはそういう仕事をしなければならないときもあるが、そういった仕事が多くなってしまうことは問題である。仕事の判断基準が、売上高というはかりやすい側面に偏重してしまい、仕事の質の良し悪しをどう判断すればいいかが、分からなくなってしまっている人がいる。
売り上げが高くなくても(場合によっては売り上げにならなくても)今後に向けて重要な仕事があるはずだ。売上高の側面では劣る仕事でも、質が良ければ積極的に取り組むように促すことがマネジャーの重要な役割である。
「仕事の質の良し悪しをどう見ていいのか分からない」シンドローム
ところが実際には、質の判断を放棄して(あるいは判断ができず)、売上高の側面だけで仕事のアサインを決め、人事評価するマネジャーもいる。「もっと売り上げの大きい仕事をしてよ」ということしかメッセージできないマネジャーである。
プロフィットセンターには、偏西風のようにいつも「売り上げを上げよう」という風が吹いているもので、そんなことは、言われなくもメンバーは分かっている。マネジャーはその偏西風と同じ方向の風を吹かせるのが役割ではない。偏西風とは異なる軸の風を吹かせるのがマネジャーの仕事である。
「売り上げは低いかもしれないが、将来に向けて重要な仕事だから、これをやろう」ということを諭していくことこそが、判断力あるマネジャーの責務である。「今さえよければいい」「当面、食いはぐれなければいい」という発想はよくない。
マネジメントの重要な仕事は、日々の仕事に追われるがまま、流されるがままに、降ってきた仕事をこなすのではなく、改めてどういう仕事を重視していくべきかの議論をする場を持つことだ。
自分たちに仕事の選択権があるということを自覚すること、文字通り、"自律"することが大切である。そのために、ときどき自分たちの仕事についてのビジョンを語り合うような場を持つように"しかける"ことがマネジャーのなすべきことだと思う。
あなたの職場は、そのような場・機会があるだろか。よく考えてみてほしい。
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