研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第22回 間延びしがちな質疑応答から脱却するコツ
- R&D・技術戦略
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
今回も、前回に続き、研究開発部門で行われている技術交流会(発表会)を魅力的に運営する姿勢と方法を取り上げる。
主催者・発表者・聴講者の良き関係
技術発表の運営においては、主催者の意識・姿勢が重要なことを前回、紹介した。主催者は技術交流会の場に参加者を集めて(各人の時間を拘束して)場を持つことの責任の大きさを強く認識すべきである。
また、発表者にやる気を持ってもらい、聴講者にとって面白い内容になるように努力をする必要がある。主催者は発表者に資料作成を求めるだけになりがちだが、発表者は主催者に発表資料作成の支援を求めることができる、アドバイスを求めることができる関係が望ましい。主催者は何度もそのような場を開催しているため、聴講者の興味の持ち方などに詳しいはずである。主催者には、発表が聴講者にとって面白く興味深い内容になるよう、支援する義務がある。
それはすなわち、聴講者にとって内容の面白さを保証するということである。聴講者から「つまらなかった」という感想が出るのは、発表者の責任ではなく主催者の責任だと考えた方がよい。
発表者は、美があると心すべきである。そして聴講者はきちんと話を聞いて、たとえば、技術のあらたな活用法をいくつか発想できなければ時間がもったいないという気持ちで参加すべきである。
また、場に参加した人にアンケートを書いてもらうケースもあるかと思う。そのアンケートは「勉強になった/ならなかった」「面白かった/面白くなかった」などの研修受講のアンケートのようなのではなく、技術発表から気付いたことを主催者と発表者に伝える(レポートする)ものと考えた方がよい。
下図のような関係が、主催者、発表者、聴講者の間に醸成できると、技術発表の場が、有意義なものになる。
質疑応答を活発にするための工夫
技術発表を聞いた後、いわゆる質疑応答の時間が持たれることがあるが、その質疑応答は活発に行われているだろうか。
よくあるスタイルは、発表が終わったところで会場の人に質問を求めるものである。しかし、この方法では、時間の制約もあり、どうしても口を開ける人は一部の人に限られてしまう。結果、多くの人は人の話のやりとりを聞くだけになるため、場に入り込みにくい心象が残ってしまう。
また、大勢の前で質問する人は、「こんな疑問って、自分だけかも」という不安を感じることがある。そのため、人によっては「基本的な質問で申し訳ありませんが・・・」などと過剰に謙遜しながら質問をすることもあり、やりとりがときにまどろっこしく感じることがある。さらに言えば、質疑応答で自分が指名される可能性があるかと思うと、無理にでもなにか「質問」を考えなければいけない、気の利いた質問をしなければならない、など聴講者に緩やかなプレッシャーになることもある。
あまり質問が出ないのも発表者に失礼だということで、主催者が気を遣って事前にお願いしていた人(さくら)に予定調和的な質問をしてもらうようにしているケースもある。こういうやり方は主催者がこの場を無難に過ごそうとしていることが参加者に何となく伝わってしまうもので、あまり効果的ではない。
そこで、一つ、具体的な工夫を提案する。
それは発表を聞いた後で、聴講者の皆さんに、隣同士の2人組で5分程度、感想、疑問、意見などを話してもらうように仕向けるのである。大勢の前で手を挙げることはためらわれても、2人組だったら口は開きやすくなるものだ。というより、2人組だったら口を開かざるを得ない。
プレゼンを聞いて気が付いたことや自分の解釈について、2人で素直に話をすれば、「なんだ、他の人もこれを疑問に思っていたんだ」ということが分かり、「では、全体でも質問してみるか」という感じになりやすい。2人組で話をした後に全体の質疑応答にすると、従来のやり方よりも場が活発になる。間違いなく全員が口を開き、自分の言葉で解釈を語ることで、参加者の心に残るものが大きい。発表者にとっても、自分が提供した話題について、会場から共鳴というプレゼントが返ってくる。
2人組で対話してから質疑応答に臨むスタイルは、聴講者、発表者の双方にとってメリットが大きい方法である。
主催者は、聴講者の多くが場に期待し真摯に対話することを信じることが大切である。そして、その信念は必ずや聴講者に伝わる。「私たち一人一人が真剣に場に臨むことを信じてくれているのだな」ということが聴講者に伝われば、技術発表会の場は有意義なものになるだろう。
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